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燕三条の中心企業に異なる関わり方を確認 ー地域内の結束と外部との関係拡張の共存が地域産業の持続力を支えると示唆ー

2026年09月24日

その他
新潟大学経済科学部の研究グループは、燕三条地域のプラスチック産業を対象に、企業間の取引関係のネットワーク分析と中心企業2社への聞き取り調査を組み合わせ、中心企業の地域との関わり方が一様ではないことを明らかにしました。従来研究では、企業がネットワークのどこに位置するかが重視され、その位置で実際にどのような行動をとるかは十分に検討されていませんでした。本研究では、地域内の協力や信頼関係を重視する関わり方と、外部の市場や企業との関係拡張を重視する関わり方を確認しました。こうした多様な企業行動の共存が、地域産業の安定性と変化への適応力を支えることが示唆されました。

【本研究成果のポイント】
・燕三条地域のプラスチック産業の取引ネットワークを分析し、その構造的に中心となる企業を特定しました。
・中心企業2社への聞き取りから、地域内の結束と外部との関係拡張をそれぞれ重視する異なる関わり方を確認しました。
・企業の位置に加えて行動を捉えることで、多様な関わり方の共存が地域産業の持続力を支えるという新たな視点を示しました。

Ⅰ.研究の背景
燕三条地域は、ものづくり企業が集積し、企業間の分業や取引を通じて発展してきた産業地域です。このような産業クラスター(注1)が、市場や経済環境の変化に対応しながら活動を続ける仕組みを理解することは、地域の雇用や産業を支えるうえで重要です。
これまでの研究では、多くの企業と取引する企業や、異なる企業群を橋渡しする企業が、情報や資源の流れに重要な役割を果たすことが示されてきました。しかし、同じようにネットワークの中心に位置する企業が、実際に地域内外の企業とどのように関わるのか、その関わり方の違いが地域産業の持続力にどう結びつくのかは、十分に検討されていませんでした。

Ⅱ.研究の概要
本研究は、燕三条地域のプラスチック産業を対象に、企業間ネットワーク分析(注2)で中心企業を特定し、その結果をもとに聞き取り調査の対象を選ぶ混合研究法を用いました。企業の「位置」と、その位置にある企業の「行動」を結びつけて検討した点が特徴です。
まず、株式会社東京商工リサーチの企業データから、プラスチック製造業と取引関係に組み込まれた卸売業を含むネットワークを分析しました。「直接つながる企業の多さ」と「異なる企業の間を橋渡しする程度」という二つの指標を用いて、中心的な位置にある企業を特定しました。データは各企業が挙げた主要取引先に基づき、すべての取引関係を網羅したものではありません。
次に、両指標で高い値を示した下村工業株式会社とJEJアステージ株式会社の2社を対象に、2022年に経営者等への聞き取りを行いました。各調査は対面で約2時間実施し、企業沿革や公開資料も参照して、地域内外との関係形成、協力のあり方、環境変化への対応を比較しました。

Ⅲ.研究の成果
分析の結果、ネットワーク上でともに中心的な位置を占める企業であっても、地域との関わり方は一様ではないことが明らかになりました。
下村工業では、地域企業との協力、相互扶助、長期的な信頼関係を重視する傾向が確認されました。市場環境の変化や困難に対し、技術力を生かすとともに、周辺企業との協力を通じて対応してきました。本研究は、地域内の調整や関係の継続を重視するこの関わり方を「結束志向型」と整理しました。
一方、JEJアステージでは、効率性や成長機会を求め、地域外の市場、企業、生産拠点との関係を広げる傾向が確認されました。地域の慣行にとらわれずに取引関係を組み替えるこの関わり方を「拡張志向型」と整理しました。地域内の取引先や団体とのつながりも、必要に応じて維持しています。
この違いは、「地域の中だけで活動する企業」と「地域の外だけで活動する企業」という区分ではありません。下村工業にも外部市場への展開があり、JEJアステージにも地域とのつながりがあります。重要なのは、企業が関係を形成・維持する際に、何を重視しているかの違いです。
地域内の協力や信頼を支える企業と、外部市場や新たな取引先との接点を広げる企業の共存は、地域産業の安定性と変化への適応力の双方を支えると考えられます。本研究は、こうした多様な企業行動が地域産業のレジリエンス(注3)を支えることを示唆しました。ただし、地域全体への効果や因果関係を直接検証したものではなく、2社の比較から導かれた理論的な含意です。

Ⅳ.今後の展開
本研究は、地域企業に一律の連携のあり方を求めるのではなく、異なる関わり方を生かす産業支援の重要性を示唆しています。地域内の協力や技能の継承を支える施策と、外部市場へのアクセス、物流、地域外企業との連携を支える施策を組み合わせることが、地域産業の持続力を考えるうえで有効と考えられます。
今回の聞き取り対象は2社であり、対象産業も燕三条地域のプラスチック産業に限られます。今後の研究課題は、より多くの企業や他産業・他地域との比較を通じて、多様な関わり方が生まれる条件と、地域産業の持続力との関係を検討することです。

Ⅴ.研究成果の公表
本研究成果は、学術誌「Journal of Strategic Management Studies」第18巻第1号(2026年9月)に掲載されました。
【論文タイトル】
From Centrality to Engagement: Brokerage Orientations and Cluster Resilience in a Japanese Manufacturing Cluster
【著者】
Chikako Ishizuka(新潟大学経済科学部 准教授)
Satoshi Arimoto(新潟大学経済科学部 准教授)
Kuo-Che Tseng(新潟大学経済科学部 助教)
【掲載誌】Journal of Strategic Management Studies, 18(1), 1–14
【doi】10.24760/iasme.18.1_1
【論文URL】https://doi.org/10.24760/iasme.18.1_1

Ⅵ.謝辞
本研究は、JSPS科研費(課題番号:23K12541)の助成を受けて実施されました。聞き取り調査にご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。

【用語解説】
(注1)産業クラスター
特定の地域に関連する企業や支援機関が集まり、取引、情報交換、技術や知識の共有などを通じて相互に関係している産業の集積です。
(注2)企業間ネットワーク分析
企業を「点」、取引関係を「線」として捉え、企業同士のつながり方や、その中での各企業の位置を数値で分析する方法です。
(注3)レジリエンス
危機や環境変化に直面しても、関係や仕組みを必要に応じて変えながら適応し、活動を続けていく力です。本稿では「地域産業の持続力」として説明しています。

本件に関するお問い合わせ先
新潟大学 経済科学部
准教授 石塚 千賀子(いしづか ちかこ)